「どこで出会ったの?」という質問に対し、かつては「友人の紹介」「職場で」「大学で」などと答えるのが一般的でした。しかし、2020年代を迎えた現在、こうした答えは次第に少数派となりつつあります。
スマートフォンの普及とともに、私たちの生活は大きく変わりました。食事の注文、移動手段、情報収集、そして“恋愛”までもが、今やスマホのアプリひとつで完結できる時代になっています。本記事では、こうした変化の中で恋愛がどのように進化しているのかを、出典に基づいて詳しく解説いたします。
オンライン上における恋愛の定着と拡大
データが示す利用の実態
マッチングアプリを通じた出会いは、いまや特別なものではなく、一般的な選択肢のひとつになりました。
Pew Research Centerが2020年に発表した調査によれば、アメリカの成人の約3人に1人が、オンラインデーティングサービスを利用した経験があると答えています(出典)。
さらに、世界規模で見ると、Cloudwards社の統計によると、2023年時点で全世界におけるオンラインデーティング利用者は3億5000万人を超えているとの報告があります(出典)。
また、アメリカではForbes HealthとOnePollによる2023年の調査で、出会いの手段としてマッチングアプリを「もっとも利用している」と答えた人が全体の45%に上りました(出典)。これは、従来の出会いの場である友人の紹介や職場・学校を大きく上回る数値です。
日本でも進むオンライン化
日本国内でもこの傾向は強まっています。MMD研究所が2022年に実施した調査によると、20代~30代のうちマッチングアプリを利用した経験がある人の割合は、およそ5割に達しており、特に都市部では日常的な出会いの選択肢として受け入れられています。
SNSではダメ?なぜマッチングアプリが選ばれるのか
利便性と効率性の高さ
スマートフォンがあれば、どこにいても出会いを求めることができます。通勤中の電車の中でも、自宅でリラックスしているときでも、ボタンひとつで理想の相手を探せる点は、特に忙しい現代人にとって大きな魅力です。
相性重視の恋愛
マッチングアプリでは、趣味や価値観、ライフスタイルなどの情報をもとにマッチングが行われます。これにより、恋愛の“フィーリング”だけでなく、将来の生活設計や考え方まで重視した相手選びが可能になります。
コミュニケーションのしやすさ
初対面の人といきなり会話するのが苦手な人にとっては、メッセージからやりとりを始められるマッチングアプリは心理的ハードルが低く、利用しやすいと言えます。
Z世代が抱える“マッチング疲れ”とは?
リアルなつながりへの回帰
一方で、マッチングアプリの利用者の中には“疲れ”を感じる人も増えてきています。
2025年にVOGUE誌が報じた特集では、Z世代(1997年~2012年生まれ)のうち79%が「できればリアルで出会いたい」と答えたと紹介されています(出典)。
「メッセージでは盛り上がったのに、実際に会ってみたらまったく合わなかった」「会うまでに時間がかかって冷めてしまった」といった声も、SNSや口コミで多く見られます。
選択肢が多すぎるという悩み
マッチングアプリでは数百人、数千人といった候補が表示されるため、かえって「誰が良いのかわからない」という状況に陥ることもあります。これは心理学でいう「選択のパラドックス(paradox of choice)」と呼ばれ、現代恋愛における新たなストレスのひとつです。
AIは果たして恋愛のかたちすらも変えてしまうのか?
AIによるプロフィール・メッセージ支援
テクノロジーの進化により、マッチングアプリも新しいフェーズへと突入しています。
2025年7月、米Washington Postは、マッチングアプリ大手のMatch GroupがAIを活用してユーザーのプロフィール作成やメッセージ内容を支援する機能を導入していると報じました(出典)。
たとえば、会話のきっかけとなるメッセージをAIが自動生成したり、ユーザーの好みに合いそうな相手をレコメンドすることで、マッチング精度の向上が図られています。
技術と実像のギャップ
ただし、AIがあまりにも“魅力的な自分”を演出しすぎると、実際に会ったときに違和感を覚えるという課題もあります。ユーザー自身の声ではなく、AIが代筆した内容に期待を抱いてしまうと、初対面でギャップが生まれ、関係がうまく進展しない可能性があるのです。
恋愛と安全性:リスクと対策
オンライン恋愛には注意点もあります。たとえば、詐欺行為、なりすまし、個人情報の悪用などです。
Pew Research Centerの同調査によると、オンラインデーティングを利用した人のうち、約半数が「嫌な思いをした」「危険を感じた経験がある」と回答しています。
こうした背景を受け、マッチングアプリ各社では以下のような取り組みが進められています。
- 顔写真の本人確認機能
- チャット内容のAIによるモニタリング
- 通報やブロック機能の強化
- ユーザーの安全ガイドラインの提示
安全に利用するためには、個人情報を安易に開示しないことや、最初のデートは人目のある場所で行うことなど、自衛意識も必要です。
変化する恋愛スタイルと今後の展望
Bumble社が発表した2025年のグローバルレポートでは、以下のようなトレンドが紹介されています(出典)。
- マイクロマンス:些細なやりとりや共感を重視する恋愛
- フューチャープルーフィング:初期の段階で将来の価値観を確認する姿勢
- ラウドルッキング:自己開示や積極性を評価する風潮
これらは、「一目惚れ」や「運命的な出会い」といったロマンティックな演出よりも、安定感や価値観の一致を重視する、現代ならではの恋愛観を反映していると言えます。
恋愛観の多様化とその背景
現代における恋愛観は、個人のライフスタイルや価値観の変化に伴い、大きく多様化しています。従来のように「恋愛=結婚」という考え方が一般的だった時代とは異なり、恋愛を通じて自己理解を深めたり、互いの精神的な成長を重視する人が増えています。
アメリカの心理学者エリック・クレーバー博士による研究では、現代の恋愛関係は「実用的で合理的なパートナーシップとして捉えられる傾向が強い」と分析されています。つまり、恋愛を感情的なものとしてだけでなく、生活のパートナーとしての側面から評価する動きが強まっているのです。
また若年層を中心に「結婚をゴールとしない恋愛」や「一人の時間と両立できる関係性」を求める声も増えており、恋愛に対する期待が「所有」や「独占」から「共生」や「尊重」へと移り変わっていることがうかがえます。
ジェンダーと恋愛の関係
恋愛の多様化と並行して、ジェンダーに関する意識の変化も進んでいます。たとえば、LGBTQ+の人々が安心して出会いを求められるようなマッチングアプリの登場や、ジェンダーニュートラルな恋愛観の浸透がその代表例です。
アメリカのGLAAD(ゲイ&レズビアン・アライアンス・アゲインスト・ディファメーション)の調査では、Z世代の約20%が自らをLGBTQ+に該当すると認識しており、恋愛観の前提となる“性のあり方”も従来とは異なるものとなってきています。
そのため、マッチングアプリ業界でも、「性別選択肢の多様化」「関係性の定義を自由に入力できるフォーム」「LGBTQ+向け機能の強化」などが進んでいます。
コロナ禍が与えた影響
2020年以降の新型コロナウイルスのパンデミックは、人々の出会い方にも大きな変化を与えました。外出制限や在宅勤務の広がりにより、物理的な接触を避けながら恋愛関係を築く必要が生じたことで、オンライン恋愛の重要性が一気に高まりました。
イギリスの経済誌「The Economist」は、2021年に「パンデミックがオンライン恋愛の普及を5年分早めた」と指摘しています。この期間、多くの人がマッチングアプリやオンラインイベントを通じて、遠隔での関係構築を模索するようになったのです。
同時に、「会えないこと」が関係の障壁になることもあり、遠距離恋愛やオンラインだけのやり取りに限界を感じるケースも報告されています。
地域や文化による恋愛観の差異
世界各国に目を向けると、恋愛観やマッチングアプリの利用傾向には文化的な違いも見られます。たとえば、アメリカやヨーロッパでは「気軽な出会い」からスタートし、関係を深めていくスタイルが一般的ですが、日本や韓国では「誠実さ」や「結婚を前提とした出会い」を重視する傾向が根強くあります。
日本では、2020年代に入ってからも「マッチングアプリ=軽い関係」という偏見を持つ人が一定数存在する一方で、真剣な交際や婚活を目的とした利用者も増加しています。これはアプリ提供会社側が「結婚に向いた出会い」や「身元確認の徹底」などの取り組みを進めたことも関係しています。
アプリ選びも“自己理解”の一環に
現在では数多くのマッチングアプリが存在しており、目的や価値観に応じてアプリを選び分ける人が増えています。たとえば、真剣交際を望む人には「Pairs」や「Omiai」、価値観診断に基づくマッチングを希望する人には「with」、カジュアルな出会いには「Tinder」や「バチェラーデート」といったように、アプリごとにターゲットが明確に分かれています。
これは裏を返せば、「自分が何を望んでいるのか」を把握していなければ、アプリ選びに迷ってしまうこともあるということです。したがって、アプリ選びそのものが、自分の恋愛観やライフスタイルを見つめ直すきっかけにもなっているのです。
恋愛は“手段”よりも“中身”へ
マッチングアプリやSNS、AIなどのテクノロジーが恋愛に与える影響は大きく、多様化する出会いのかたちを支えています。一方で、その便利さに頼りすぎることで生じる課題や、リアルなつながりへの回帰といった動きも同時に見られます。
大切なのは、「どのように出会うか」ではなく、「どう関係を育むか」です。テクノロジーを上手に活用しながらも、自分自身の感性や価値観を大切にできる恋愛のあり方が、今後さらに求められていくことでしょう。